横浜家庭裁判所 平成10年(少)7418号 決定 1999年1月08日
少年 I・U(昭和56.8.20生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
1 A、B、C、D、E子、F子と共謀の上、テレホンクラブを使って男を呼びだして金品を強奪することを企て、F子がテレホンクラブに電話してデートを口実にG(当時37歳)を呼び出し、平成10年6月16日午後9時15分ころ、横浜市○○区○○×番所在の○○公園内及びその付近において、Gに対し、「俺の女をナンパした」などと因縁をつけ、その全身を多数回殴ったり蹴ったりするなどの暴行を加え、Gが会く反抗できないような状態にした上、G所有の現金約1万5000円、携帯電話ほか1点(時価合計約10万9000円相当)、普通乗用自動車1台(時価約10万円相当)を強盗し、その際、右暴行によりGに全治まで約1ヶ月間を必要とする脳挫傷、肋骨骨折、血胸、全身打撲の傷害を負わせた
2 A、B、C、D、E子、F子と共謀の上、Gにサラ金から金を借りさせたり、Gの両親を脅すなどして更に現金を得ようと考え、翌17日午前1時ころ、前同所において、前記Gを同人から強奪した普通乗用自動車の後部座席に押し込んだ上、B、D、Cなどが同車に乗り込んで発進させて、Gの実家などに案内させるなどして、同日午前8時30分ころ、前同所付近路上まで戻ってくる間の約7時間30分にわたって、Gを同車後部座席に閉じこめ、あるいはGを取り囲むなどして脱出することを不可能にさせて、Gを不法に監禁した
3 A、B、C、H、E子、I、F子と共謀の上、テレホンクラブを使って男を呼び出して金品を強奪することを企て、F子がテレホンクラブに電話してデートを口実にJ(当時33歳)を呼び出し、同月21日午前4時10分ころ、同市○△区○△町×番×号所在の○△公園球技場入口付近及び同公園○○駐車場において、Jに対し、「お前さっきの電話の奴か、金もってんだろ、出せ」などと因縁をつけ、その全身を多数回殴ったり蹴ったりし、さらに、持っていた木製の棒でJの背中などを殴ったりするなどの暴行を加え、Jが全く反抗できないような状態にした上、J所有の現金2万9000円、財布1個ほか1点(時価合計約1000円相当)、普通乗用自動車1台(時価約60万円相当)を強盗し、その際、右暴行によりJに全治まで約10日間を必要とする胸背部打撲、腹部打撲の傷害を負わせた
4 H、K子、Lと共謀の上、テレホンクラブを使って男を呼び出して金品を強奪することを企て、K子がテレホンクラブに電話してデートを口実にM(当時23歳)を呼び出し、平成10年10月3日午後10時40分ころ、Mが普通乗用自動車に乗って、横浜市○□区○□町××番地×所在の○□公園に到着するや、K子、LがMを同公園内のバスケットボール練習場に誘いこみ、同所で待ち伏せしていた少年、HがMに対し、「なんだお前、俺の女に手を出す気か」などと因縁をつけ、Mの両手に金属製手錠をかけた上、その全身を多数回殴ったり蹴ったりし、さらに、鉄棒様の物で殴ったり、原動機付自転車で轢くなどの暴行を加え、Mが全く反抗できないような状態にした上、M所有の普通乗用自動車1台(時価約35万円相当)、現金4000円、キャッシュカードほか3点在中の財布1個、腕時計1個ほか3点(時価合計約3万1000円相当)を強盗し、その際、右暴行によりMに約3ヶ月の治療を必要とする頭部・顔面外傷、全身打撲、第2・第3腰椎の左横突起骨折、左腕左橈骨神経麻痺の傷害を負わせた
5 H、K子、Lと共謀の上、前同日午後11時10分ころ、前同所において、前記Mを同人から強奪した普通乗用自動車の荷台に押し込んだ上、少年ら4名が同車に乗り込んで発進させて、同月4日午前3時ころ、横浜市○○区□○町×××番地所在の○○付近路上まで疾走させ、その間、約4時間にわたって、Mを同車後部荷台に閉じこめて脱出することを不可能にさせて、Mを不法に監禁した。
6 同年10月9日午後9時48分ころ、同市○□区○○×丁目××番地所在の○○公園内において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって政令で定めるトルエンを含有するシンナー約340ミリリットルをみだりに吸入する目的で所持した
7 N子と共謀の上、同月13日午前10時5分ころ、同区□□××番地××所在の□□公園において、前同様のシンナーを吸入し、かつ、その残量約186ミリリットルをみだりに吸入する目的で所持した
ものである。
(法令の適用)
非行事実1、3、4について 刑法60条、240条前段
非行事実2、5について 刑法60条、220条
非行事実6について 毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2
非行事実7について 刑法60条、毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2
(処遇の理由)
1 本件は、少年らが「テレ狩り」と称して行った強盗致傷3件、「テレ狩り」の際の監禁2件、さらに毒物及び劇物取締法違反2件という各事案である。強盗致傷事件については、程度の差はあるにせよ、いずれの事件においても被害者に対する暴行の程度が凄まじく、生じた結果が重大であるだけでなく、引き続き負傷している被害者を被害者所有の車に数時間にわたって監禁したまま連れ回すなどしており、その態様は非常に悪質である。特に、非行事実4及び5の事件については、少年らは、被害者に対して瀕死の重傷を負わせ、このままでは死んでしまうかもしれないと思いながらも車の後部荷台に乗せたまま連れ回した挙げ句、路上に放置しているのであって、他人の痛みなどを全く考えない残酷極まりない非行であり少年の責任は重い。また、毒物及び劇物取締法違反の事件についても、非行事実6の事件で警察に検挙されているにもかかわらず、再度、非行事実7の非行を犯しているのであって、法軽視の態度が顕著であり、シンナーに対する親和性も認められる。
2 少年は、不就労で生活保護を受給して生活している両親の第4子(三男)として生まれているが、姉はダウン症で精神薄弱者施設に、長兄は幼いころから同級生に対する暴力・万引きなどを繰り返し10歳のころから教護院にそれぞれ入院するという家庭環境で、家庭内での躾も全くなされないまま育ち、昭和63年4月、小学校に入学したころからお菓子やおもちゃを万引きするようになり、小学校5年生ころからは学校にも行かず、小学校6年生のころには、やはり非行化していた次兄と共に原動機付自転車の窃盗などをするようになった。このような逸脱行動をするようになったため、困った両親は児童相談所に相談し、平成5年9月、少年は教護院向陽学園に入園することになった(次兄も約1ヶ月後に同学園に入園)。教護院では数回の無断外出があったものの比較的落ち着いた生活を送っていたが、同8年5月、帰宅訓練のため自宅に帰ると、先に教護院から出て働いていた次兄と一緒にシンナーを吸入するようになり、教護院を無断外出しては本件共犯者のC、E子、Iらと行動を共にして遊び回るようになった。同年9月から同年10月の間に、次兄やCらと共に、原動機付自転車窃盗、恐喝、傷害、ひったくり窃盗、毒物及び劇物取締法違反の各事件を立て続けに起こして逮捕され、勾留を経て当庁に送致されて観護措置をとられた後、同年12月6日、初等少年院に送致された(平成8年(少)第××××号、同第××××号、同第××××号)。同9年11月17日、少年は、少年院を仮退院し、不良仲間との交遊を絶つ決心で地元に帰らず更生保護施設に帰住したが、同年12月下旬ころには同施設を出て、次兄の住み込み先の寮に同居し、2ヶ月ほど板金工として働いたものの、給料が安いのが不満だったことと、友人からの誘いなどで横浜に帰りたい気持ちになり、翌10年3月ころからは横浜に帰って住み込みで鳶職見習いをした。少年が3ヶ月ほど真面目に働いていた同年6月ころ、もっと楽な仕事を世話してくれると友人が言うのを真に受け仕事をやめたが、結局、仕事の世話をしてもらえず無職となってしまい親元に帰ることになり、昔から付き合いのある地元の不良仲間と共に本件強盗致傷を起こしたり、シンナーの吸入を再開するなど少年院に送致される前と同じ生活に戻ってしまっている。
このように、少年は、少年院仮退院後、少年なりに仕事で頑張ろうという気持ちはあったようだが、前述のように不良仲間との交友関係を絶つことが出来ず、規範意識が曖昧なまま、被害者の痛みや自分のやっていることの重大性・危険性を考えることが出来ずに次々と非行に及んでいることに照らすと現段階では少年の非行性は著しく進んでしまっていると言わざるを得ず、既に指摘したような様々な問題を改善しなければ、再非行を犯す危険性は非常に高い。
3 以上述べたような少年の抱える問題性、本件事案の重大性、家庭の保護能力の欠如、地元の交友関係などを考慮すると、少年を今一度矯正施設に収容し、徹底した矯正教育を施して規範意識を高め、今度こそ何があっても犯罪を繰り返さない、薬物に手を出さない決意を固めさせると共に、他者に対する思いやりの気持ちや共感性を育てることが必要である。また、今度こそ仕事を続けることができるよう、就労意欲を高めたり、地道な努力を継続する力を養うことも期待したい。
なお、少年の非行性が進んでいることに鑑み、上記目的の達成には比較的長期間を必要とすると考えるので、別途その旨勧告する。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 小川理津子)
〔参考〕 処遇勧告書<省略>
〔編注〕 少年院長は、処遇勧告の内容を受けて、1年5箇月の個別的処遇計画を作成した。